9月27日公開 映画『惡の華』監督・井口昇、原作者・押見修造Wインタビュー

漫画家・押見修造が2009年から5年間に渡って連載し、鬱屈とした青春と行き場のない衝動を描き、多くの読者に強烈なインパクトを与えた『惡の華』。

伊藤健太郎、玉城ティナ、秋田汐梨、飯豊まりえと今注目の若手俳優が出演していることでも話題の本作がいよいよ2019年9月27日から公開となる。

本作のメガホンを取るのは、『片腕マシンガール』(2007年)、『電人ザボーガー』(2011年)などで世界中で熱狂的ファンを生み出している井口昇。
脚本を『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2013年)、『心が叫びたがってるんだ。』(2015年)などでアニメファンの心を掴んだ岡田麿里が担当している。

今回、井口昇監督、原作者・押見修造のお2人にそれぞれの青春時代、そして岡田麿里脚本がこの映画にどういった影響を与えているのかお話を伺った。

左から原作者の押見修造さん、井口昇監督

 

 

――まずは井口監督にお伺いします。原作の「惡の華」を読まれて監督自ら映画化に向けて動かれましたが、「惡の華」のどういった所に惹きつけられたのでしょうか。

井口昇(以下、井口) 過去の自分の作品、特に自主映画時代に気の弱い男の人と女の人のサドマゾ的な関係性を描いた作品をずっと撮っていました。そういう話が元々好きだったというのもありますが、『惡の華』を初めて読んだ時にまさにこういう作品を映像にしたかったんだという気持ちに強く響きました。
この作品の事は本当に自分の事のようによく分かる作品というか、こういうことを日常で思っていたので最初はそこに惹かれましたね。
高校時代はずっと文化部で、大体学校の昼休みはずっと何をしていればいいのか分からなくて水飲み場にいるか図書室にいるかみたいなことが多かったんです。
文化部の中にもなかなか馴染めなくて、吹奏楽部とか美術部を見ると楽しそうで良いなとずっと思っていましたね。そんな自分の青春時代ともすごく重なりました。
ブルマではないですが、自分の好きな女の子の物を盗んでしまうんじゃないかと思って過ごしていたので、こんなにも共感できる作品は他になかったです。
小説では谷崎潤一郎なんかも読んでいましたが、それはちょっと自分の状況より大人な世界でした。
まさに自分が過ごしてきたものにここまでリンクする作品はなかなか出会えないんじゃないかなとすごく思いました。
特にダンボールで作った秘密基地の空間の中に二人が過ごしている場面は「まさにこれが見たかった!」というものが出てきて、それを僕自身も映像に焼き付けたいとすごく思ったんですよね。
そういう意味では人としてもクリエイターとしてもすごく刺激された作品です。

――押見先生は学生の頃からファンだった井口監督からの映画化の話が来ていると聞いた時の心境はいかがでしたか?

押見修造(以下、押見) 井口監督と初めてお会いしたのが2011年の10月でした。
編集者さんに紹介していただいてお会いしたんですが、僕も井口監督の作品が大好きで、井口監督も「惡の華」を読んでくださっていて面白いと言ってくださったのを憶えています。
その時から井口監督が「いつか映画にしたい」とおっしゃってくださってめちゃくちゃ嬉しかったです。
当時は具体的なことはまだだったんですけど、それからずっと井口監督に撮ってほしいと思い続けてきたので、ついにやっていただけるということで非常に感慨深いです。とても嬉しいの一言でした。

――お二人はどのような学生時代を過ごされたのでしょうか。特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

井口 中学の時は、映画研究部に本当は入りたかったんですけど、無かったので写真部に入って、高校の時は映画研究部でした。
ただ写真部も映画研究部も部活の中でも全く人気がなくて、両方とも不良少年のたまり場みたいになっていて、すごく荒廃していたんですよね。
僕が通っていた学校は部活に入いらないと単位が取れない所だったので、嫌々入ると部室や暗室の中にエロ本が隠してあって、それを先輩に見せられたりしました。そういうので色々教わりました(笑)。

押見 そこで映画友達みたいな人はいなかったんですか?

井口 全然映画の話をできる相手はいなかったです。映画研究部に入ってもそういう意味で孤独な日々が多かったですね。
ただ唯一クラスの中でバンドやっている人たちがいて、音楽系の人たちってだいたい体育できなかったんですよ。
僕も体育できなかったので、体育できない者同士がだんだん仲良くなっていくんですね。それでそのバンド系の人たちとは少し仲良くなって、そのうちの1人が出世してギターウルフのドラマーの方になりました(笑)。
あと女子にもいい思い出が全然なくて、バレンタインデーとかも本当にこの世から消滅すればいいのにって思って過ごしていました。
当時は『わびしゃび』に出てくれた女の子の事が好きだったんですけど、その子がバレンタインの日に手作りしたチョコレートを缶に入れて持ってきてくれました。でもそれが全部失敗して焦げたり溶けたりしたやつなんです。「失敗した欠片なんですけど、それでも良かったら食べます?」って・・・。それを食べた苦い味をたぶん一生忘れないなと思います。

押見 それは素晴らしいお話でしたね。

井口 ありがとうございます(笑)。先生はいかがですか。

押見 中学生の時は部活に入らなきゃいけなかったので、友達に誘われて軟式テニス部に入っりました。そこは体育会系だったので、先輩にもめちゃくちゃしごかれましたね。
あと水は飲んではいけないみたいな時代でもあったので絶対に運動部には入りたくないと思い、高校は美術部に入りました。
割と進学校だったので不良にはいじめられなかったんですけど、在籍だけして部室に来ない人ばっかりだったので一人美術室で絵を描いていましたね。

――そんな学生時代で、春日でいう「惡の華」のような支えになったものはありましたか?

井口 僕の場合はやっぱり映画でしたね。小説とかも結構読んだりもしていたんですが、映画館に行くことでかなり救われた所がありましたね。
中学2年の時に映画のシナリオコンテストがあって、それに応募したら準入選にまで入ったんですよ。それで「こいつらと俺は全然違うんだ」みたいな気持ちになったりもしました。その後も何回か出したんですが、そこは全然引っかからなかったので「こんなもんか」と思ったのを憶えています。
でもそれでその時もらった賞金で8mmカメラと映写機を買って、自主映画を作ることができたので、まあただそういうことがかなり当時の救いにはなってますよね。

――押見先生はどうでしたか。

押見 僕は本です。映画館も一応あったんですけど、本当に小さい町の映画館だったのでメジャー作品がたまに回ってくるだけで。レンタルビデオ屋もあったんですけど、ゲームセンターが隣にくっついていてそこが不良のたまり場になっていたんですよ。中学高校くらいの時は怖くて入れなかったんです。
実家にあるビデオもフェリーニとかブニュエルとかしかなかった。
大学に入って東京に出てきていっぱい映画見られるようになりましたがそれまでは本を読んでるしかなかったです。

――今回脚本が岡田麿里さんということで、岡田さんの脚本を読んだ印象はいかがでしたか?

井口 岡田さんとはだいぶディスカッションをして書いていただいていたので、その段階をずっとして読んでいました。最終的に岡田さんがどの人物に対してどう思っているかっていうのを聞いた時に、意外にも「佐伯さん、私大好きなんです」って言われたんです。逆に「常磐さんはちょっと分からない」って言っていました。
多分それは佐伯さんの方が毒があるから身近に感じられた所もあったのかも知れないですね。出来上がった脚本を読んだ時も11巻の原作のどこをチョイスしてくるかって所をすごく上手くまとめてるなと感じました。
その中でも「ここは岡田さんならではだな」っていう所は、やっぱり佐伯さんがらみの所を丁寧にチョイスしてくるなって思いました。
喫茶店で春日を毒づく所であったり、再会して「あの子を不幸にするの?」って言う所であったりとか、そこは女性ならではの視点というのを感じたし、岡田さんの中にある毒の感じっていうのが『惡の華』と良い意味で融合して不思議な輝きを出しているなと思いましたね。

押見 僕も方向性的にも良く出来ていて、最初に見せていただいた段階からすごく岡田さんらしさが漲っていると感じました。視点の置き方、話の見方として男性的じゃない所が出ていました。

井口 僕もすごく関心したのは、基本的に原作と同じセリフを抽出しているんですけど、岡田さんの世界になってるっていう印象を受けたんですよね。

押見 漫画を描く時も春日の視点の物語として描いたんですが、春日という奴は、男性らしい男性じゃないと思うんですよ。自分もそうだからなんですが、女の子っぽいというか心の中に少女がいる男にしたかった。あまりどぎつく童貞みたいな感じとか男の子っぽい感じになりすぎると違うって思ってたんです。
そこは井口監督ならそういう風にはしないって思っていましたし、岡田さんの脚本もそこが感じられてそういう意味ではすごい良かったです。

井口 当初、どなたに脚本を書いてもらうかという時に当然、男性の脚本家さんにお願いしようかっていう話もありました。ただ男性の脚本家さんにした場合、ちょっと男の人感が強くなってしまうのかなと思ったんです。先程先生もおっしゃったように『惡の華』という作品の唯一無二な所は、思春期の男の子の話なのに中性的なんです。
童貞の少年の話だともっと下世話な方に行きがちなのがそうではない。そこに僕も共感した所があったので、やはりそれを考えると男性の脚本家よりも女性の脚本家の方が良い中和になるんじゃないかなと思って岡田さんをお願いしました。

――最後に見所・メッセージをお願いします

井口 原作が素晴らしいと思っているので、なるべく原作の良さを損なわず忠実に映像に出来たと思います。今までのアニメも舞台にも高校生編が含まれていませんでしたが、高校生編までを描いてこその『惡の華』だなと思う所もあるので、物語の結末までを映画の中に取り入れています。そこは是非注目してほしいです。
あと、とにかく役者さんが頑張ってくれています。
一見、伊藤健太郎さんも玉城ティナさんも格好良すぎる、可愛すぎると思う方もいるかも知れませんが、観てもらえればなぜこのキャスティングなのか、すぐに納得していただけると思います。特に10代の思春期の方に見てもらいたいです。

押見 現実逃避願望がある人はぜひ観ていただきたいと思います。
みんなすごく気持ちよくなって最後に泣ける映画になっていますので、アニメを見ていただいた方にも観てほしいです。
物語的にも続きが描かれているのもありますし、漫画・アニメ含めてそれぞれの描き方があって、物語の本質みたいな所は共通していると思います。
前に漫画を読んでいてしばらく読んでいない人も色々と見方が変わっていると思いますので、人生を振り返るためにも見てほしいです。

★作品詳細

『惡の華』

9月27日(金)より、 TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム

原作:押見修造「惡の華」(講談社コミックス/講談社刊)
監督:井口昇
脚本:岡田麿里

出演:伊藤健太郎、玉城ティナ、秋田汐 / 飯豊まりえ ほか

公式サイト:http://akunohana-movie.jp/
公式Twitter:@akunohana_movie

©押見修造/講談社 ©2019映画『惡の華』製作委員会