NETFLIXオリジナルアニメシリーズ『HERO MASK』 青木弘安監督インタビュー

日本のアニメスタジオと組んで数々のオリジナルアニメ作品を配信しているNetflix。
それぞれのスタジオが自社の持ち味を存分に発揮し、日本のみならず海外でも高イ評価を得ている。
そしてこの夏、スタジオぴえろが制作した本格派クライム・サスペンス・アクション『HERO MASK』のパート2が全世界同時配信で配信されている。装着した人間に人知を超えた力を与える謎の「マスク」を巡り、主人公の刑事・ジェームズを中心にマスクに翻弄される人々を描いている。海外ドラマのようなスピード感とスリル、そして手書きのアニメーションならではの魅力が相まって世界中で反響を集めている。

普段アニメを見慣れたいない海外ドラマを観ている方におススメしたい注目のアニメ『HERO MASK』について、青木弘安監督に作品の誕生秘話や魅力、パート2の見どころを伺った。

『HERO MASK』青木弘安監督

――まずは本作の制作の経緯からお伺いできればと思います。監督ご自身は制作のどの辺りから参加されたのでしょうか?

青木弘安(以下、青木) 僕はプロデューサーから「新しい形のヒーローもの作りたい」と声をかけて頂いた所からの参加です。
大枠で『ヒーローものである事』『ある程度リアルな方向で』とは決まっていたが、どういった内容の作品になるかはまだ決まる前でした。

 

――『HERO MASK』というタイトルも響きからぱっと連想するのは分かりやすくヒーローものをイメージしてたのですが、刑事ものでした。

青木 ふたを開けてみると最初からマスクを使うやつらが襲ってきますからね(笑)。

 

――マスクをつけた集団が出てきて、お祭りでアクションを繰り広げる幕開けで思わず『007 スペクター』を連想してしまったのですが、そういった作品からの影響はあったのでしょうか?

青木 第1話のお祭りシーンのマスク自体はある種のミスリードだったり、マスクを扱う作品という事で出しました。
タイトルだけ聞くとマスクつけた戦隊ヒーローだったり、『キックアス』みたいにヒーローになりたい人が形から入るような作品の印象からアニメを見始めたら、お祭りでマスクが出てきて、1話2話と観るにつれてマスクが折り紙みたいになって顔を変える。けど犯罪に利用されているような兵器かと思ったら、セオ(パート1第4話に登場)みたいな事があって、パート1の途中にもサラが新聞社で調べものをしている中で中国の変面が出てきますが、そういった顔を隠すものとしてのマスクだったり、マスクの印象がどんどん変わってもらえれば面白いなと思ったんです。
パート1だとマスクの話自体は完結していませんが、パート2にかけてまたマスクの見え方が変わっていくはずです。

 

――今回NETFLIXでの配信として制作されていますが、通常のTVアニメ制作とは違いがありましたか?

青木 かなり違いました。まず表現に関して言うとかなり自由でした。有料の形を取っているからか、描写の限界は特に無いんです。
劇中ちょっとグロテスクな絵面もありますが、それ自体TVのような規制は無かったです。
技術的な話で言うと普通のアニメーションの倍以上のカット数が1話あたりに詰め込まれています。これをTVでそのまま流すと、ディレイがかかってしまって、もやっとした絵面になってしまうんですよね。
そういった規制が無かったのでカット数に関してやりたかった事もクリアできましたし、かなり自由にやらせてもらえました。

 

――具体的にカット数はどれ位になりましたか?

青木 1話あたりだいたい600カット前後ですので異常なカット数ですよね(笑)。
一番多い話数で6話の710カットで、少なくて400カット位です。400カットって普通のTVシリーズなら多すぎると怒られるカット数ですよ。
「今回めっちゃ少ないじゃん!」って言いながら作ってました(笑)。感覚が狂ってましたね。

 

――他には何かありましたか?

青木 あとはWeb配信ということもあってスマホでも観られることも想定して作っています。
映画だったら当然劇場でかかることを想定して作りますし、TVシリーズなら大なり小なりTVで観ますよね。
そういった所でこの作品にはTVで観るかもしれないし、スマホで観るかもしれない。場合によっては劇場で観る機会も無くはないだろうと。
どの媒体でも観られるような表現の形を意識しながら、なるべくスマホで観られたとしても情報量を明確に、言いたいことがカットとして伝わるかは考えて作りました。
具体的に言うと画角ですね。
色んな情報を排して直球で伝わるように、通常のTV作品に比べて引きの画をかなり排除してアップのカットでつなげています。
通常だったら伝えたい情報のいくつかを引き画1つで伝えますが、アップにする事で伝えたい情報が限定されてしまいます。入れられない情報を他のカットで表現して連ねていくので必然的にカットも増えていきました。

 

――表現で言うと海外の方々も観られる事もある程度前提で意識しましたか?

青木 それはかなり大きかったです。キャラクターの風貌にしてもある特定の人種として描いていません。リアルな物語をリアルな世界観で描くけれど、特定の宗教や主義主張を全面に押したり、特定の人種を描いているつもりはありません。
実写だと否応にも役者の人種が出てしまいますが、アニメーションなので違和感がないレベルで無国籍な感じが出せればと心がけました。

 

――日本でも海外ドラマが流行っていますが、そういった物の影響はどうですか?

青木 実写だとお話の中に人種や宗教、政治だったり、予めそういった色んな問題が組み込まれて展開していくことが多いと思いますが、『HERO MASK』に関してはそういった現実問題を描く作品ではありませんでした。
逆に言うと1つのマスクを中心にして色んな主義主張があるという構造を描きたかったんです。なので、その他の現実的な問題は持ち込まないようにしました。
例えば、ある程度無視したとしても実写だと逆に引っかかってしまう問題もあると思うんです。それがアニメーションなら引っかからずに架空の事を架空の事として描ける。
これは世界同時配信ということもあって、アニメーションで描く利点の1つだと思います。
劇中お葬式のシーンで多少宗教色は出てしまっていますが、こちらの描き方としては一般的なお葬式として描いています。ある特定の宗教に肩入れしているもりはありませんし、宗教を描きたかったわけではなく、あそこでは文化・慣習を描きたかったんです。

 

――現実と地続きのような世界観の中のテクノロジーとして、ジェームズたちが使っているコンタクトレンズと物語のキーとなるマスクがあると思います。改めてどういうものなのか監督からご説明いただけませんでしょうか。

青木 この作品の中で一番のウソはマスクだろうと思います。恐らく将来的にもこのマスクは実現しないんじゃないでしょうか。このマスクの一つの側面を切り取った形で実現する可能性のあるものはいくつかあるかも知れませんが、全ての機能を持っているマスクは絶対実現しないだろうし、夢のようなものとして描いています。
一方でジェームズが使っていたGPS弾やコンタクトだったり、これに近い形の物は実現するかもしれない。なんならプロットタイプ的はすでに実現しています。
なのでコンタクトはSFだとしても実現できる物として描いてして、劇中のキャラクターですら驚くような絶対ウソだと思われるものはマスクのみだと想定してます。

 

完全オリジナルアニメ『HERO MASK』第2弾PV
https://youtu.be/aHyfw4VU2e8

 

アクションシーンについて

――アクションシーンは実際に人間が動ける範囲でだいぶリアルな演出をされていますが、どういった意図で演出されたのでしょうか?

青木 アニメーションで作る上でアクションシーンはある種の華だと思います。特に手描きのアニメーションの場合は作画枚数も使って、かつデフォルメの利いたアクションのアニメーションはかなりありますよね。
それも間違いなく手描きアニメーションの魅力の1つですが、それが故に実写でも撮ろうと思えば撮れるであろうアクションを押している作品はあまりないんじゃないでしょうか。
アニメーション作品を作っていますが、Netflixで実写作品が並ぶ中で「普段はあまりアニメを観ないけど海外ドラマは観ています」という方々がアニメだけど観たくなるような作品が作りたかったんです。
なので、アクションに関しても実写のようにカメラで捉える事は意識して演出しました。

 

――確かに映画や海外ドラマ好きな人に向けて意識している作品だと感じました。NETFLIXオリジナルアニメ作品は他にもいくつかありますが、それぞれ制作スタジオの持ち味を存分に発揮しています。その中で『HERO MASK』は良い意味でスタジオぴえろの先入観を裏切ってくれていると感じました。

青木 今回スタジオぴえろで仕事させていただくのは初めてなんですが、僕が呼ばれた段階でぴえろらしさは求められていないんだろうなと思ったんです。例えば『ナルト』のような作品を作りたければ僕は呼ばれないだろうと(笑)。
目新しいことをやりたいというプロデューサーの意向もあったので、じゃあとことんやりましょうということになりました。

 

キャスティングについて

――キャスティングについて伺います。吹き替えの現場でも活躍されている方が多く起用されているように感じました。これは何か意図があってのことでしょうか?

青木 これに関しても作品をリアルにする事を考えた時に、海外ドラマをNETFLIXで見た場合、吹き替えも入っているじゃないですか。なので、劇中キャラクター達が喋っている言語も外国語でそれを吹き替えているテイストを出したかったんです。
この作品は世界同時配信ということもあって、英語圏以外にも主要な言語で吹き替えられています。日本で作ってはいますが、日本向けに日本語に吹き替えている体にしたかった。
音響監督の久保(宗一郎)さんもアニメの仕事もされていますが、海外ドラマの仕事をメインでやられている方で、吹き替えの役者さんとキャラクターのイメージを結びつけてキャスティングを提示してもらいました。
久保さんのお力もあって役者さんに恵まれた作品になったと思います。

 

キャラクター・衣装について

――キャラクターデザインや衣装についてもあまり普段アニメを観ない人へアプローチされているなと感じました。今回衣装デザインとしていさおさんを起用されていますが、こだわりはありましたか?

青木 衣装については完全にいさおさんにお任せしました。キャラクターの漠然としたイメージだけお伝えして、いさおさんから出てくるものを使っています。
自分がオーダーしてしまうと現実にある物しか生まれないんですよ。その点、いさおさんなら現実にあるラインだけどアニメーションとして画になった時に映える物にしていただけると。
デザイン案を見ると『このパーツはエナメルで、このパーツは何で』としっかり指定されているんです。
色を作る際にもハイライトの色が服の素材によって変わってしまうので、色彩設計の古性(史織)さんといさおさんの衣装をもとにこだわって作りました。

 

――オープニングの音楽もとても印象的でした。

青木 オープニングの音楽は加藤(久貴)さんが、1週間くらいで上げてきてくれました。こちらのオーダーとしてサスペンシブな感じとだけお伝えしていただけでしたので、全て加藤さんのお力ですね。

 

キャラクターの関係性について

――ジェームズとハリーは元々バディーを組んでいてた中で、それぞれの道を進んでいきます。パート2に入って2人の関係はどう変化していきますか

青木 基本的にこの2人の関係地はパート1で観て頂いたまま進んでいきます。一方でイヴの病状が悪化してハリーの気持ちは焦っていく。パート1ではある種結託していたハリーとコナーですが、パート2では次第にぶつかるようになります。
ジェームズはジェームズで、ティナというキャラクターと出会います。これまで漠然とマスクを中心に対立していましたが、マスクを作る上でティナが1つのキーになり、彼女をめぐる対立に変わり、もう少し表面化していきます。
ハリーはコナーと一緒にいるので、マスクをめぐる全貌もある程度理解している状況でですが、ジェームズはパート1から一貫して視聴者と同じ目線でマスクに関する情報を知っていきます。
なので、ジェームズはハリーの行動動機の全貌は分からないまま進んでいきます。

 

――パート2の新キャラクター・ティナについてもう少し詳しくお伺いしたいです。

青木 ティナは今まで物でしかなかったマスクを体現する少女です。マスクは物語の序盤から色々な面を見せていますが、その多面的に見えていたマスクがそもそも何なのか、という話にパート2からはなっていきます。
パート2の序盤もマスクのさらに新しい面を提示していきますが、その中心にはティナがいます。最終的には彼女の生い立ちとマスクが色々と関係していきます。
ジェームズもティナと一緒にマスクについて知っていくと、どんどん新しい面が見えていきます。最終的にはマスクとは何なのか謎に迫るお話になっています。

 

『HERO MASK』制作で影響を与えた作品は

――『HERO MASK』の制作に当たり、監督が意識した作品は何かありましたか?

青木 映像の表現レベルでは「ボーン」シリーズのアクションシーンにはかなり影響を受けました。画コンテに入る前に改めて見返してカット割りなど分析したくらいです。お話としては明確な作品はありませんが、構成を考えていく上で「なかなかヒーロー物って成立しにくいよね」と、話し合いの中ではよくアベンジャーズシリーズが話題に挙がっていましたね。『HERO MASK』も正確には『HERO』と『MASK』の間にはイコールに斜線が入っていて、割と明確にヒーローではないという描き方をしています。
ただ、ティナにとってジェームズはヒーローに見える可能性がありますし、イヴにとってのヒーローたるハリーはジェームズにとっての敵でもあります。
誰かのヒーローになる人は誰かにとっての敵になる、そういった多面的な見え方がマスクを通して見えてくるように描きたかったんです。

 

――なるほど。ちなみに青木監督がどんな作品が好きですか?

青木 鈴木清順の作品も好きですし、最近ではNetflixオリジナル作品の『バスターのバラード』(監督・脚本はコーエン兄弟)が面白かったです。ざっくりに言うと音楽が流れて人が理不尽に死ぬオムニバスの話なんですが、それぞれの話の共通点はそれしかないんです。1つの法則性、世界観のリンクがある中で全く別の人々を描いています。そう考えると個人的には群像劇という描き方が好きなのかも知れません。
誰か1人のキャラクターに自分自身を投影してお話全体を描くよりも、世界にはいろんな人がいて、それぞれが関係し合っていくことで変化していくような、少し俯瞰した見方でお話を紡いでいくのが好みですね。
他には(スティーブン・)ソダーバーグ作品も好きですし、小説では阿部和重さんの『シンセミア』など学生時代に読んでいました。
こういった作品のエッセンスが『HERO MASK』にも入っているかも知れません。

 

――最後にパート2を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします

青木 パート2に関してはパート1に比べて描き方をがらっと変えています。パート1は出来事をメインに描いていましたが、パート2ではより個人の感情にスポットを当てて描いています。パート1で回収されなかった伏線もパート2で回収されていますので、まだ見ていない方はパート1から観て頂いて、パート1を観ていた方は改めてパート1からを観返して頂けるとパート2で新しい発見があると思います。
何度でも観返してもらいたいです。

 

★作品詳細

Netflixオリジナルアニメシリーズ『HERO MASK』

PertⅠ、Ⅱ Netflixで全世界独占配信中

【スタッフ】
 監督・シリーズ構成:青木弘安
キャラクターデザイン:片桐貴悠
美術設定:山田勝哉
美術監督:園田由貴、中村隆

衣装デザイン:いさお
色彩設計:古性史織
撮影監督:久野利和
画面設計:sankaku△ 
編集:柳圭介
音響監督:久保宗一郎
音響効果:西村睦弘
音楽:加藤久貴
アニメーション制作:スタジオぴえろ
製作:HERO MASK製作委員会

【キャスト】
ジェームズ・ブラッド:加瀬康之
サラ・シンクレア:甲斐田裕子
ティナ・ハースト 嶋村 侑
レノックス・ギャラガー:森田順平
エドモンド・チャンドラー:高野憲太朗
ハリー・クレイトン:内山昂輝
ジェフリー・コナー:青山穣
スティーブン・マートランド:菅生隆之
リチャード・バーナー:仲野裕
モニカ・キャンベル:渋谷はるか
フレッド・ファラデー:志村知幸
グリム:烏丸祐一
リチャード・バーナー:仲野裕
イヴ・パーマー:藤井ゆきよ
アンナ・ワインハウス:宮寺智子

公式サイト: http://heromask.jp
公式Twitter :@heromask_anime
公式Facebook:https://www.facebook.com/heromask.jp

©フィールズ・ぴえろ・創通/ HERO MASK製作委員会