監督が作品に込めた想いとは。『日本沈没2020 劇場編集版 -シズマヌキボウ-』湯浅政明監督インタビュー

日本SF界の巨人、小松左京の大ヒット小説『日本沈没』の初のアニメ化に、『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』等で世界的な評価を受け、『DEVILMAN crybaby』でアニメ表現の限界を突破した湯浅政明監督が挑んだ『日本沈没 2020』。

本年7月にNetflixで配信された『日本沈没 2020』は、“国が失われゆく人々のアイデンティティ”という1973年に刊行された原作のテーマを残しつつ、2020年現在の日本を舞台に、未曾有の事態をごく普通の家族の目線で描かれている。

本日11月13日(金)からは、配信された全10話の配信版のストーリーを湯浅監督の手による編集で再構築し『日本沈没2020 劇場編集版 -シズマヌキボウ-』が全国劇場で封切られた。

容赦なく襲う大災害、人種や国籍、思想や世代も異なる多様な人々、ネットを背景にした文化など、いま現在の世界がリアルに抱える事象を、アニメならではのファンタジー性と、極めて冷静な視点を交えて描かれた本作には、配信後にSNSを中心に賛否両論が巻き起こった。

そんな様々な声を真正面から受け止めた本作に湯浅政明監督が込めた想いとは何なのか監督ご本人にお話を伺った。

 

――改めて、今回「日本沈没」という作品にNetflix版から劇場版と関わられてきてのご感想をお伺いできますでしょうか。

湯浅政明監督(以下、湯浅監督) Netflix版を作っている途中から、配信の範囲だけでしか見られないのはもったいないんじゃないか、作り手としてはもっと多くの人に見て欲しいな、という気持ちがありました。何よりダビングの時に音が良かったんです。Netflix視聴者の中でも、日本だと5.1chで聴かれている方はそんなにいないという話も聞いて、劇場で、この音で聞いてもらえるといいなと思っていました。
Netflix版で意外と賛否極論も出て、劇場編集版として公開するにあたりどういう風にすればもっと伝わるかも鑑みながら編集した感じになっています。

――制作期間は1年半~2年位とお伺いしました。

湯浅監督 出来る事を進め、作業を他に指示しながら、自分は色々他の作品が落ち着いた後、去年あたりから本腰を入れていきました。脚本は順調で、その1年前には上がっていたと思います。脚本家チームと人物をどういう風に作っていこうか、どういう話にしていこうかという部分を1番話していました。ステレオタイプにならない「普通」。多様性を描く中で結局、脱カテゴリーという所へたどり着き、日本沈没のテーマへとなって行きました。エンタメシリーズでもあるので、毎話数飽きさせないように、考えながら作りました。

――「日本沈没」のお話が湯浅監督の所にどの段階で持ち込まれ、準備にどれくらいかかったとかお伺いできればと思います。

湯浅監督 3年前くらい前、Netflixさんとの企画の相談でいくつか話があがるなかで『日本沈没』をご提案いただきました。そのあと、割とすぐに設定作り~脚本に進んでいきました。得意分野が違う複数の脚本の方たちとミーティングをしながら物語を作っていったのですが、忙しく他の作品も並行して進めながらでした。それでも一昨年の春あたりには脚本の終わりが見えて、設定も進み、夏からはコンテの打ち合わせを数本しましたが、そこから一年くらいあまり進んでいない様子で、1つ仕事を片付けた去年の春辺りから自分も出張ってやる様になりました。なかなかスタッフの集まりもよくなく、その後も数本並行していたので、結構大変でしたね。

――監督自身はこの話をお聞きになって、どの辺りに興味を惹かれたのでしょうか?

湯浅監督 想像だにしないビックタイトルだったので、それが面白そうだなと思いました。自分だと考えもしないし、自分たちの体制でやるには難しそうな内容だけどどうやれば出来るのだろう?って考えていくのが実際面白くはありました。

――制作期間を振り返ってみていかがでしたか?

湯浅監督 とにかく忙しかったです(笑)。手伝う人が機能しない時期もあって、後半現場は大変な感じになりましたね。
内容的にはなんとか目指していた所へ着地できたと思ったんですが。突っ込まれ易い要素もあって、公開するといつも以上に賛否になりましたね。
感想もできるだけ目を通して、色んな受け取り方や傾向があるんだなと思いました。
その辺りを踏まえて、劇場編集版は少しでもより観客の方に届くといいなと思って編集しています。

――監督から観てどんな作品になりましたか?

湯浅監督 そうですね。実は僕はずっと、国と自分の関係についてちゃんと考えた事がなくて、違和感を時々覚えていて。
例えばスポーツ選手や、日本人の誰かが世界で活躍すると、自分のことではないのにとても嬉しいですよね。自慢したいくらいです。でもそれ引っかかるんです。その嬉しい気持ちってなんなんだろうって。自分の事じゃないだろ。のっかってんじゃないのかおまえ。って。
ほとんどの人が、特にその理由なんて考えずに生活しているんじゃないかなと思うので、この作品がそんなことを考える良いきっかけになればいいなと思います。

――制作初期にあった、作品の完成形のイメージは最後までお変わりなかったですか?

湯浅監督 ビジュアル的には少しずつ形は変えていますけど、国と自分との関係を考えるというか、自分が何でこうやって生きていられるのか、どうやって人は生きていくのか、どう生きてきたのか、そういうことを考える作品にしようって思っていた内容的には変わっていません。

――Netflix版から劇場編集版を全10話のストーリーを再構成して制作するにあたり、一番意識されたポイントはどこでしょうか。

湯浅監督 まずは見やすくすることです。内容は変わりませんが、1本の映画としてすっと見てもらえるように意識して編集を行いました。配信だと、中々集中して観てもらうのが難しかったりすることもあると思うんですが、劇場ではしっかりと席に座って観ていただけるので、大仰にするというよりは中心になる人物にぼんやりスポットを当てて淡々と見ていただける様に編集できればと考えていました。

――劇場版では、配信時40曲以上あった劇伴を半分以下の曲数にしていらっしゃるとのことですが、編集にあたり意識された点などを教えて頂けますでしょうか。

湯浅監督 牛尾さんが頑張ってくれて、Netflix版のシリーズは本当に音楽が綺麗にはまっているんです。その音を是非劇場で聴いて欲しかったんですが、劇場編集版を制作する中でストーリーを色々とつまんでいくと、元々の音楽だと合わなくなるし音楽が矢継ぎ早に流れ過ぎてしまう。なのでショーアップよりも淡々と事実を見てもらう方向にシフトして音楽は減っています。牛尾さんに怒られるかも知れませんが(笑)。
ここぞというところでしっかり流れているのでぜひその5.1chの音楽も聴いて欲しいですね。音楽を抜いた所は、SEや台詞などの音もダイレクトに聞こえるので、適材適所のハイブリット感があると思います。

――少し話戻りますが、Netflix版の10話は最初から10話と決まっていたんですか?

湯浅監督 最初は11話か12話だったと思います。何話とかは決めずに脚本もスタートしています。11話くらいあった方が良いよね、という形になったのですが、
後半はもっとトントンといきたかったので、1本減らしてその代わり10話を長くしています。

――今回「日本沈没」を初めてのアニメーションで描かれることになって、一番苦労された所はどのあたりになりますか?

湯浅監督 先ずは絵的なリアルさが必須だと思ったので、それはお願いしながら、どうやったらシリーズでも効果的なスペクタクルな絵も入れられるかは、色々提案もしてみました。内容としては小説も映画もドラマもヒットしていて、再び映画も近年作られてヒットしていたりと、「日本沈没」がどんな話なのかは一般の方にある程度理解がある状態の中で、シリーズとしてのアニメで今、何が描けるのだろうかという所ですね。
当時小松さんが考えられていた『日本が沈む』ということと、今『日本が沈む』ということではかなり意味合いが違うと思っていて。
小松さんが書きたいと思っていた「日本沈没」は、日本が沈没した場合にどうなるんだ、何を考えるんだという所に着目して、社会を動かしている人達から俯瞰してシュミレーションしてみていると思うんです。
今回はそうではなく、ごく平凡にこの国に生まれて、まだ国のことや、国と自分との関係についてもあまり深く考えた事がない一般人の人たちが思考する形にしようと考えました。
作品が執筆され始めたのは敗戦後20年あまりで、一億玉砕から、がらっと方向転換して高度経済成長、東京オリンピックや大阪万博があり、戦争の記憶がまだ残りながらも「そんなに変わって大丈夫か?」というくらい日本がうかれていたときでした。それから更に50年以上の歳月が経って、私たちはあたりまえに平和な国の中で生まれ、豊かさを享受しながらバブルを経験し、今度は高齢化社会、格差社会になりながら、震災、コロナがあり更なる災害に怯えている。
今は映像でパニックを見せるというよりも、当たり前にあった国という保護者がなくなったら?というシミュレーションの中、国とはなんなんだろう、自分にとって国とはなんだったんだろうと考えるきっかけになるような作品になればいいと考えていました。

――すでにNetflix版をご覧になっている皆様も沢山いらっしゃいますが、監督がお考えになる劇場版ならではの見どころを教えてください。

湯浅監督 音響が良いというのもありますし、音楽も控えめになって、声や音がストレートに伝わって来て、また違う感じ方が出来るかと思います。あと、ちょっとマニアックですが、全10話をどういう風に編集しているんだろう?という目線で見てもらっても面白いかなと。全体的に縮めて違う印象になるような部分も多いと思うので、「ああこういう風な感じになっているんだ」と、違いも楽しんでいただければと思います。

――「日本沈没」の作品中で印象的なキャラクター「カイト」について教えてください。
劇場編集版のメインビジュアルにも登場しているキーになるキャラクターの一人だと思うのですが、「カイト」というキャラクターを考える上で意識されたことや演じられている小野賢章さんについて伺えればと思います。

湯浅監督 企画当初の頃は、まだYouTuberという存在が子供には人気があるけど大人にはそんなに快く受け入れていない状況でした。なので逆に、大人が納得するような立派な行動がとれ、知識も能力も長けてる様な人物として描ければいいなと思い、何でもできるヒーロー然としたキャラになっていきました。
それが最終的に本当に底知れない天才・・・もしかしたら軍部や国とつながりでもあるのか?と思わせるような大きな力を持った大活躍の人物になりましたね(笑)。
個人的なYouTuberというよりも、自分の組織を持って支援者もいる、無線中継気球を飛ばしたり、災害中にボランティア救助を行なう様な大きな事業も行なっている人だと思います。
そしてみんなが色んな事に縛られてる中、ひょうひょうと自由に生きている。
「カイト」という名前がそうですが、凧のように宙に浮いていて地面に関係なく飛んでいる。
どんなカテゴリーからの束縛も嫌って自由になることを望んでいる人。国でもそうですし、性別にも縛られないような人として描けるといいなと思ってカイトを描いています。
裏設定を話しすぎると、表現しすぎるかもしれないと、小野さんには色んなバックグラウンドは話さないで演じてもらっていました。
カイトは嫌味な人ではないんですよね。ぶっきらぼうにただ、客観的にそうであるからそうだと言っているだけ。
合理主義者で、自分では感情的になる事や、情に行動を左右される事はまったくないと思い込んでいる人なんです。でも限界に近づくとやっぱりどこかでこの人も人間なんだという部分が見え隠れするのですが、自分を奮い立たせてそうではないと頑張っているキャラクターとして小野さんにも演じてもらいました。

――もし日本が消え去ったら、湯浅監督ご自身はどのような生き方を選ぶと思われますか

湯浅監督 どうでしょうね(笑)。
その時にならないと分からないかも知れないですけど、何が起こってもすぐ判断できるようにしていようとはいつも思っていますね。
ここにいるからどうということではなくて、どこにいてもたぶんそうだろうし、生活が変わったとしても元々やりたいと思っていることは変わらないし、何を基本にして生きていくかってことも全く変わらないと思うんです。
いつも変化に準備して、何がどうなっても平気なようにしたいな、と思っています。

――本作の公開を楽しみにしている皆さんへ一言お願いします。

湯浅監督 面白い話にできていると思います。ネットや自分の周りにも賛否はありましたが、自分たちは割と上手く出来たと思っていて、それをもっと受け取ってもらえるようにどうしようか考えた、その答えが今回の劇場版です。
出てくる登場人物は、一風変わっていて、みんなおかしな人たちですけど、ごく普通の人たちだと思っています。未知の状況下で自分がどこに立っているのかを振り返って、探しながら歩いていく人たちがいる一方、世界を把握して自由に動いているちょっと信じられないような人もいたりする。
色々なことを考えてもらえるきっかけになるような良い作品になっていると思うので劇場で見て頂けたらと思います。よろしくお願いします。

 

【湯浅監督が深堀り!】超解説 副音声上映決定!

「日本沈没2020 劇場編集版-シズマヌキボウ-」公開にあわせて、公開劇場で、制作陣による“イヤホンで聴く副音声付き上映”が実施される。

<コメンテーター>
湯浅政明(監督)、牛尾憲輔(音楽)、吉田尚記(ニッポン放送 アナウンサー)
※無料のスマートフォンアプリ「HELLO! MOVIE」を使って上映中に副音声を同時に聴くサービスとなっています。詳細は公式サイトをご確認ください。

 

「日本沈没2020 劇場編集版 -シズマヌキボウ-」公開記念舞台挨拶を実施

●舞台挨拶日時&会場
TOHO シネマズ 六本木ヒルズ
2020年11月15日(日) 9:50の回 上映後登壇
2020年11月15日(日) 13:25の回 上映前登壇
※開映時間は変更になる可能性がございます。

●登壇者(予定)
上田麗奈(武藤 歩役)、村中 知(武藤 剛役)、小野賢章(カイト役)、湯浅政明(監督)
※敬称略・登壇者は変更になる可能性がございます。

 

「日本沈没2020 劇場編集版 -シズマヌキボウ-」初日限定特典 概要

■初日限定特典:「激レア原画ポストカード」

本作を象徴する、成長を遂げた歩の姿を描いた原画ポストカードを公開初日となる 11 月13 日(金)限定で配布します。
(原画:和田直也)

※11月13日(金)の公開初日のみの限定配布となります。
※数量限定。無くなり次第終了となります。 

 

 

『日本沈没2020 劇場編集版 -シズマヌキボウ-』本予告
https://youtu.be/_jiTCy98BMw

【STORY】
2020年、日本を襲った突然の大地震。ごく普通の家族、武藤家の歩と剛の姉弟は一家4人で東京からの脱出を始めるが、刻々と沈みゆく日本列島は、容赦なく彼らを追い詰めていく。極限状態で突きつけられる、生と死、出会いと別れの選択。
途方もない現実と向き合う中、歩と剛は、未来を信じ、懸命に生き抜く強さを身につけていく…

 

★作品詳細

日本沈没 2020 劇場編集版 -シズマヌキボウ-

2020年11月13日(金)全国ロードショー

【配信】
Netflixで7⽉9⽇(⽊)全世界独占配信
エピソード:全10話

【スタッフ】
原作:小松左京『日本沈没』
監督:湯浅政明
音楽:牛尾憲輔
脚本:吉高寿男
アニメーションプロデューサー: Eunyoung Choi
シリーズディレクター:許平康
キャラクターデザイン:和田直也
フラッシュアニメーションチーフ:Abel Gongora
美術監督:赤井文尚 伊東広道
色彩設計:橋本賢
撮影監督:久野利和
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
アニメーション制作:サイエンスSARU

ラップ監修︓KEN THE 390

【キャスト】
武藤歩:上田麗奈
武藤剛:村中知
武藤マリ:佐々木優子
武藤航一郎:てらそま まさき
古賀春⽣:吉野裕⾏
三浦七海:森なな⼦
カイト:⼩野賢章
⽦⽥国夫:佐々⽊梅治

【作品公式サイト】 http://japansinks2020.com/
【作品公式twitter】@japansinks2020

公式サイト https://www.netflix.com
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『日本沈没2020』スペシャルPV「シズマヌキボウ」 Full ver. – NETFLIX
https://youtu.be/6QIEK5NbEAY

『日本沈没2020』クリップ|ラップに乗せて魂で叫べ!
https://youtu.be/BN8VBw1xWP8

『⽇本沈没2020』本予告
https://www.youtube.com/watch?v=3kZe3vXf96Q

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