第11回新千歳空港国際アニメーション映画祭 『ルックバック』上映&トークレポートが到着!

 

2024年11月1日(金)〜5日(火)に開催された「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」。
11月4日(月・祝)には、コンペティション長編部門入選作品であり、長編部門審査員特別賞を受賞した『ルックバック』について、「メイキングオブ:ルックバック」と題し、監督である押山清高氏を迎えて本作の制作背景についてお話いただきました。聞き手は本映画祭委員の田中大裕です。

 

メイキングオブ:ルックバック
https://airport-anifes.jp/programs/mo_look_back/

 

複数回映画館に足を運ぶ観客も多く、興行収入20億円を突破しロングヒットを記録した『ルックバック』は、現在Amazonプライムでの配信もスタート。公開から3~4ヶ月を経過してもなお、押山監督には問い合わせや取材が殺到しており、多忙な日々が続いています。
本作はアヌシー国際アニメーション映画祭を皮切りに、ロサンゼルスやソウルをはじめ世界各地で上映されており、中国では驚異の5000館超で公開されました。「一般の方々やアニメーション関係者から非常に好評なリアクションをいただいている」と喜びを語りました。

 

 

漫画をアニメーションに落とし込んでいくこと

今回、キャラクターデザインも担当された押山監督。藤本タツキさんの原作をアニメーションにする際に特に注意を払った点について触れ、「藤本タツキさんの絵はタッチが多く密度の高い絵が特徴」とし、それをアニメーションに落とし込んでいくときに、「線の密度をどのように調整するかを考えました」と、キャラクターデザインを見せながら説明していきます。

例えば、京本の目の表現について「涙袋なのか、下まつ毛なのか、くまなのか」といった細部を明確化するなど、制作チームが統一して描けるように整理したプロセスについて解説。
また、絵コンテ等にいつまでも決定稿が出てきていないことについて田中に指摘されると、「優柔不断さのせいです」と笑いつつ、「描き直したいときには描き直せるように」決めないことにしていたと明かします。
60分弱の本作でも、絵コンテ完成からアニメーターと制作を開始し完成するまで1年ほど描き続けることになるアニメーション制作の現場。「作品への理解が進むことで絵柄はどうしても変わってきてしまう。デザインにも自由度を持たせた方が良い表現を追求することで結果よいものになると思っています」と制作の裏側についても振り返りました。

 

 

さらに原作をアニメーション化するにあたっての藤本タツキ先生とのやりとりについては「原作を最大限尊重し映像化することを最初に伝えた」と話したと明かしました。そうした原作への思いは、一本の線に仕上げすぎない表現手法や、輪郭を明確にしない瞳の描き方など、通常のアニメーションでは使用しない表現に挑戦していることなどへの話の中に現れていました。
また漫画と映像の違いとして、漫画の表現として自由にコマ割りができること、映像では必ず横長のサイズで観せる必要があること、空間としての人物の立ち位置、動きでより加えることによってドラマが魅力的に見えるかなどを挙げ、漫画表現をアニメーションにする上で、漫画の印象をそのまま踏襲すること意識したと強調しました。

 

音があることが、漫画との大きな違い

田中は、ナチュラルな芝居がアニメ関係者の中でも話題になっていたことに触れ、「どのようにそう作っていったのか」と質問すると、「オーディションの中で自然な声が出せる、ナチュラルな芝居ができる人を選んだ」と述べ、演技について特別な指示はなかったと答えました。「結果的に声優ではなくて実写の俳優を選んだことになるので、作品全体がキャラクターと馴染んだと思う」と回顧しました。

また音楽については、「絵コンテ(アニメ映画の設計図)の段階でビデオコンテを作って、自分でセリフや欲しいイメージの音楽を入れ込んで見せた」と音楽を担当したharuka nakamura氏との制作プロセスを回想し、「何を欲しているのか掴んでもらったあとは、自由に作ってもらった」と押山監督。

 

 

映り込み、光の表現、絵画のように描いていきたい

冒頭、主人公が机に向かう姿と机に置いてある鏡に映り込む表情の表現は大変印象的でした。映像へのこだわりとして、「反射というものを大事に描いているのでは」と田中からの質問に、押山監督は「作品の中で映り込みを積極的に描いていこうと決めていた」と言い、「物の反射光など、背景美術のみなさんには意識してもらった」と印象的な映り込みが描かれるシーンを見せながら解説しました。
アニメーションで映り込みを描くということは、さらに別で映り込みだけの絵を用意することになるのだそう。「アニメーターから上がってきたレイアウトに対して(映り込みの指示等を足して)どんどん大変にしていった。申し訳ない」と苦笑いしつつ「映り込みが好きなんです」とそのこだわりについてさらに話は深まっていきます。

押山監督は、アニメーションの現場にある課題として、背景美術は効率化を求められるあまり、絵として描いているという意識が薄れてしまいがちであるということを指摘し「出来るだけ一枚絵として美しい絵にしてほしい」と注文をしていたと明かします。
また押山監督が印象派の作品が好きであったのと、藤本タツキさんが学生時代に油絵学科だったことから、水彩的な背景ではなく、厚塗りでしっかり色が乗っている絵画的な表現になっていったと振り返りました。
これに対して田中は、「映り込みや光の表現というのは、絵画の歴史としても繰り返されてきたこと。光をどうやってアニメーションに取り込むかっていうことに熱を入れて取り組んでいると感じました」と述べ、トークを締めくくりました。

「ルックバック」はPrime Videoでの世界配信中のほか、全米での大ヒットを受けて、全米公開版で本編と同時に上映されている「インタビュー付き特別版」が上映中です。アニメ化オファーがきた時の感想や、「ルックバック」をアニメーション表現する際のアイデア、さらに本作ならではの「原動画」という特殊な制作過程について押山清高監督が劇場アニメ「ルックバック」の見どころを語ります。
詳細はルックバック公式サイトをご覧ください。

 

 

 

新千歳空港国際アニメーション映画祭

新千歳空港国際アニメーション映画祭は、北海道と世界を結ぶゲートウェイである新千歳空港ターミナルビル(北海道千歳市)を会場とした、アニメーション専門の国際映画祭です。
第11回目の開催となる今年は、2024年11月1日(金)~11月5日(火)の5日間で、国内外の話題作など招待作品の上映はもちろん、多様な未来につながるアニメーションの体験を提供する様々なプログラムを展開します。
今年もゲストと観客が密接に交流できる独自の場を活かし、アニメーションの意義を拡張するような新しい価値を生み出す「遊び場」として、エネルギーを持ち帰ることができる文化交流拠点の創造を目指します。

第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭
https://airport-anifes.jp/

 

 

『ルックバック』とは

『ルックバック』は、『ファイアパンチ』、『チェンソーマン』といった話題作を手掛け、劇場版アニメ『チェンソーマン レゼ篇』の公開も控える漫画家・藤本タツキ渾身の作品。2021年7月にコミック配信サイト「少年ジャンプ+」にて公開され、ひたむきに漫画を作り続ける藤野と京本という2人の少女の姿をみずみずしく描きながらも、やがて起きる2人の運命を分ける出来事を強烈なリアル感を持った筆致で描き出し、著名なクリエイターたちをはじめ、多くの漫画ファンの注目を集めました。本作の劇場アニメ化にあたり、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、『借りぐらしのアリエッティ』、『風立ちぬ』など、数多くの話題作に主要スタッフとして携わってきた、押山清高(おしやま・きよたか)が監督、脚本、キャラクターデザインを務めます。また、主演は、河合優実と吉田美月喜のW主演。「不適切にもほどがある!」(24)での演技で話題が沸騰した、今最も注目を集める俳優・河合優実と、映画「あつい胸さわぎ」(23)「カムイのうた」(24)等では主演を務め、昨今目覚ましい活躍に拍車をかける俳優・吉田美月喜が、劇場アニメ『ルックバック』の藤野と京本に生命を吹き込みます。
7/31(水)より全世界での上映も順次スタートし、世界20以上の国と地域で公開され、全世界興行収入の累計が460万ドル以上(約6.8億円)(10/6現在、1ドル=148円換算)を突破し、『ルックバック』の公開を待ち望んだ多くのファンが劇場に押し寄せました。SNSでは、「エンディングクレジットで全員が立ち上がれなかった…」、「今年最高の映画のひとつ」など絶賛のコメントが寄せられています。10月6日(日)(※現地時間)からは北米にて50館以上での公開がスタート。米Rotten Tomatoesでは批評家スコア100%の好スタートを飾ったほか、10月25日(金)からは中国大陸地域で劇場公開された。

 

 

■『ルックバック』あらすじ

学生新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられる…。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思い。しかしある日、すべてを打ち砕く出来事が…。胸を突き刺す、圧巻の青春物語が始まる。

 

 

 

☆作品詳細

ルックバック

〈スタッフ〉
原作:藤本タツキ「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・キャラクターデザイン:押山清高
出演:河合優実、吉田美月喜
アニメーション制作:スタジオドリアン

〈キャスト〉
藤野:河合優実
京本:吉田美月喜

〈主題歌〉
「Light song」
by haruka nakamura うた : urara

公式サイト:lookback-anime.com
公式X:@lookback_anime

■原作
「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊) コミックス発売中

 

「ルックバック」公開記念新PV
https://youtu.be/FbZd4FeNcLU

 

劇場アニメ「ルックバック」本予告【6月28日(金)全国公開】
https://youtu.be/gH6zVJVHEaM?si=zqb_herUKNScJKYT

 

劇場アニメ「ルックバック」特報
https://youtu.be/6pKt9OsxwWc?si=NUgNnWyuKA8w1e2u

 

© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会