世界で初の長編アニメーション中心の映画祭として、また多岐にわたるプログラムとアジア最大のアニメーション映画祭として、漫画・アニメのクリエイターを数多く輩出してきた“アニメーション首都”新潟にて行われる新潟国際アニメーション映画祭。
第3回新潟国際アニメーション映画祭が3月15日(土)より開催中!
アニメーションのトレンドを先取りしたセレクション、そして国内外の第一人者のクリエイターたちの生の声を聞ける機会とあって、新潟のみならず国内外からファンが駆けつけて、昨年の参加者数2万4000人の参加を上回りそうな熱気を見せている。
3⽇⽬となる3⽉17⽇は“秩⽗三部作”などヒット作で知られる新潟出⾝・⻑井⿓雪監督が『空の⻘さを知る⼈よ』と共に凱旋︕
トークショーでは⾃⾝のキャリアを振り返るとともに、若いクリエイターやこれからアニメ業界を⽬指す若者たちへ、⾃⾝の体験と共にエールを送る⼀幕も。
そして現在⾏われている⻑編コンペティションの監督たちが記者会⾒に臨みました。
3⽉17⽇(⽉)オフィシャルレポート
世界の潮流:新潟とアニメーション『空の青さを知る人よ』 & マスタークラス(日報ホール)
登壇:長井龍雪(監督) MC:藤津亮太
写真左︓藤津 右︓⻑井⿓雪監督
世界の潮流<新潟とアニメーション>の特集及び世界の若手クリエイターに向けたマスタークラスのトークイベントに新潟出身の長井龍雪監督が凱旋!インドアだった幼少期、「ずっとアルバイトを続けている気分」と語るアニメ業界での働き方や、これからアニメ業界を目指す若者への金言まで多岐に渡るトークとなった。
新潟で生まれ、TVで放映されている『ベルサイユのばら』や『機動戦士ガンダム』を見て育ったという長井監督。絵を描くのは好きだがそれが仕事になるとは思っていなかったという。広告業界が華々しかった時代、広告の専門学校に進み、学校の担任の進言で印刷会社へ就職。2年目に東京へ行くことになり、そこで退職。「会社が借りてくれていたアパートに住んでいたのですぐ出てけって話になり。隣町に専門学校の同級生がいたので転がり込みました。その同級生がゲーム会社に就職して音楽をやっていたんですけど、ゲームグラフィックをやっている方と一緒に遊ぶようになったり。アニメもやるくらい上手い人だったんです。こういう人たちがいわゆるクリエイターって人たちなんだなと思っていました」
バイク便のアルバイトなどをして食い繋いでいたところ、アルバイト求人誌にアニメ会社の制作進行の募集を見つける。「業界に入るとか気負った感じは全くなく。制作進行はアニメーターさんの自宅に原画を回収しに行く仕事なんですが、生活リズムも人それぞれ。深夜、朝方指定される時間に取りに行くのを繰り返していたんですが、寝る時間とか自分でコントロールできなくて。体力的にはきつかったですね」と振り返る。「でも入ってみると作っているのは面白かったですね。昔のアニメ業界のこと”終わらない文化祭”っていうじゃないですか。その流れに巻き込まれている状態が心地よかった」
アニメ業界的にもセルからデジタルに移行しようとしていた時代。制作進行から演出に移ることに。「先に進むにはプロデューサーに進むか、演出に進むか。サラリーマン時代の経験からプロデューサーは無理だなと思って」と消去法で演出の道へ踏み出すことに。長井氏はその後制作デスク、演出助手、各話演出と進んでいくわけだが、そこには転職が多いアニメ業界ならではの人脈が広がっていた。声をかけてもらって、やってみる、を繰り返すことで結果的にキャリアを積み重ねていくことになったそうだ。でも「1話と最終話がすごく羨ましかったんです。始まりと締めまでマルっと作品に関われるっていいなと。そこから監督にならないと全部マルっとはできないんだな、監督っていいなと思い始めた」のだという。
ちょうど監督になりたいと思い始めていた時に来たのが『アイドルマスター XENOGLOSSIA』、そして『ハチミツとクローバーⅡ』だった。自分の監督としての仕事の仕方が決まってきたのはいつ頃か問われると「『XENOGLOSSIA』のあたりでひたすらコンテに力を入れて、全てを込めるスタイルは決まったのかな」と語る長井氏は自分の仕事のやり方についても明かしてくれた。
「まず脚本をひたすら読んで。後に戻って直すのが苦痛なタイプなので、ひたすら頭から書いていくタイプ。シナリオにその時思ったことを書き込んで、波をシナリオ上で確認して、そのリズムを落とし込んでいく。いわゆるロジックに積み立てることは結構苦手なので、読んだ時の自分の中の印象が崩れないように頭から順に流し込んでいく感じですね。」と仕事のやり方にも触れた。「絵コンテって描ける絵の精度に左右される部分があって。アングルが描ければ描けるほど使える手段が増えていくので、やっぱり数をこなしていくうちに手がこなれてきて、自分の頭の中で考えたものをなるべくそのまま絵コンテ上に落とし込めるようになってくる。そうなるとどんどん手も早くなるので伝えやすくもなる、というのを繰り返して今の形になった。画面移動を伝えるためには、アングルを伝えるのと同時にカメラとして成立しているのかという部分も描いてみないとわからない。描けてしまえば最低限ここまでは表現できるよねという共通認識になるので」
2008年にはその後長く仕事をともにする田中将賀氏や岡田麿里氏との『とらドラ!』を手掛けることに。「同世代と一緒に仕事ができるのが初めての経験で。対等に話ができてる感じがしてすごくやりやすかったし面白かったですね」と振り返る。そこでのチャレンジは”曖昧な感情を曖昧なまま画面にいかに出すか“だったと語る。曖昧な感情ってコンテでどう表現するのかと問われると「曖昧な表情を描くんです(笑)記号表現にならないものを積み上げていく。一番わかりやすいのは笑顔。マークにならないように、一個一個が記号にならないように、曖昧な部分を表現していきたいなと当時は思っていました」
3人はその後『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』そして今回上映される『空の青さを知る人よ』と次々とヒット作を発表。”秩父三部作”で区切りをつけ、2024年には新作『ふれる。』も発表された。
年齢の近い気になる監督を聞かれると『進撃の巨人』の荒木哲郎氏の名前を挙げた長井氏。「演出を始めた頃に助監督をされていて。しかも荒木さんは絵がうまくて、雑誌版権とかも荒木さんが描いたり、キラ星のように感じていました。仲良くさせていただいてますが、心の中では負けないぞって思っていました」と笑顔で明かす。
そして最後に「とりあえず手を動かせ!という感じですね。監督という職業といえどクリエイターの一人。結局手を動かした数が力になる気がするんです。どれだけ線を引いたかが自分の土台になる。監督という立場になるといろんな人に指示を出したりお願いすることが増えるけれど、結局自分が何ができるかという部分がしっかりしていないと伝える言葉に重みが出ない。1本1本線を引いて、積み重ねることが大事」とこれからアニメ業界を目指す若者たちにエールを送った。
長編コンペティション 監督記者会見(メディアシップ20Fそらの広場)
登壇:ジョヴァンニ・コロンブ(『バレンティス』)久野遥子(『化け猫あんずちゃん』)
エリック・パワー(『ペーパーカット:インディー作家の僕の人生』)ラースロ・チャキ(『ペリカン・ブルー』)
写真左から ジョヴァンニ・コロンブ、久野遥子、エリック・パワー、ラースロ・チャキ
長編コンペティション部門の監督たちが記者会見を行った。
『バレンティス』のジョヴァンニ・コロンブ監督は「初めてアニメに挑戦した作品です。(映画の舞台でもあり自身の出身でもある)イタリアのサルディーニャは島なのでイタリアの中でも言葉も文化も違う独特な場所。そこにある風景も人も映画の題材になるし、サルディーニャの文化の中にいろんな物語がある。それを使って作品を作るのはサルディーニャ人として本当に嬉しく思っています」と語る。『化け猫あんずちゃん』の久野遥子監督は「昨日上映があり、Q&Aではお客さんがかつてないほど近くで熱心に聞いてくれて。温かい気持ちになり、熱量を感じて嬉しかった。お客さんの顔を見れて身近にお話できたのは貴重な体験でした」と観客とクリエイターの距離の近い映画祭の特色に触れた。
『ペーパーカット:インディー作家の僕の人生』のエリック・パワー監督は、第1回に続いて2度目の新潟となるが、「皆さんこんにちは、私はエリックです。『ペーパーカット』の監督です」と流暢に日本語で挨拶。「下手な日本語ですみません」と謙遜するが「新潟が2つ目の私の家のように感じている、戻ってきたんだという気持ちでいっぱい」と笑顔を見せた。
『ペリカン・ブルー』のラースロ・チャキ監督は「初めての日本、初めての新潟です。東京と比べて静かで日本らしい街」と新潟の印象を語った。
初めてのアニメ作品だというコロンブ監督に「なぜアニメでやろうと思ったのか、きっかけは?」という質問が飛ぶと「現実を乗り越える方法として魅力を感じている。実際の世界を離れて描けるのがアニメーション。急に人物が消えたり現れたりもそうです。実写にできない表現ができる。ただ、先の見えない時期が続き苦労した作品でもあります」と語った。
久野監督には「日仏合作だが、両国の感覚の違いを感じた場面は?」という質問が飛んだ。久野監督は「ZOOM会議で制作のMiyu Productionsの人とお話していたんですが、一番大きかったのは劇中かりんちゃんが母に会いに地獄に行くというくだりがあるんです。母の遺骨を探すくだり、お母さんの骨がどれかわからなくなっちゃってその骨壷を探してお母さんの骨をもらうというシーン。それは日本的すぎると。フランスの感覚だと骨を触ったり見たりするのはホラーの表現になってしまうと言われました。日本人の感覚だと亡くなった時に骨を見ているのは当たり前の感覚だったので、怖すぎるんだねと話し合ったりしました」と裏話を語ってくれた。
パワー監督に劇中出てくる「子連れ狼」について問うとパワー監督は「私は「子連れ狼」がアメリカで見ることができるようになった時に”暗殺者の話”ということで見たんですが、それ以来時代劇にハマってしまい大好きになって、それが私の大きな経験になっています。今回作った作品は自分の自伝のような作品ですので、もともと私の最初のアニメ作品に出てきているため出しています。原作ももちろん読んでます!」と満面の笑顔で語った。
自身の作品を”アニメイテッド・ドキュメンタリー”と表すチャキ監督は、犯罪者の素性や風景や雰囲気を”隠すためアニメーション”なのかと問われると「まさに私がアニメーションの手法をとった理由の一つが、個人情報を隠すため。ドキュメンタリーですので実際に関わった人たちを守るためということでした。キャラクターデザインは私のかつての教え子たちに頼んでいるのですが、彼らがわからないような形でキャラクターが出てきている。単なるアニメーションではなく、実写を使うこともない”アニメイテッド・ドキュメンタリー”は未来を示すものだと思う。いろんなさまざまな手法はあるけれども色々な形で表現ができることもアニメーションを使った理由」と話した。
■国際映画祭の舞台となる新潟市とは
19世紀、海外への窓口となる世界港をもつ新潟は、江戸を凌ぐ国際的な商業都市でした。また新潟は、多くの著名なマンガ家、アニメ・クリエーターを輩出し、2012年から10年間、「マンガとアニメを活用した街づくり構想」を実施、継続的なイベントとして「にいがたアニメ・マンガフェスティバル」(来場者約5万人)、1996年から全国対象で「にいがたマンガ大賞」も実施。また、「新潟市マンガ・アニメ情報館」や蔵書1万冊を誇るマンガ図書館「新潟市マンガの家」を運営、マンガ家志望者のための家賃補助施設「トキワ荘」、そしてマンガ雑誌編集部と結んだ無料「ON LINE添削」を実施するなど、日本有数の熱烈なアニメ・マンガ都市でもあります。そして──21世紀、本映画祭に集結したエネルギーを、グローバル・アニメーションの創造へのマグマとし、新潟は世界のアニメーションの首都を目指します。
【第3回新潟国際アニメーション映画祭】
■会期:2025年3月15日(土)~ 20日(木・祝)6日間
■名称:第3回新潟国際アニメーション映画祭
Niigata International Animation Film Festival 2025
■主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
■フェスティバル・ディレクター:井上 伸一郎(「月刊Newtype」元編集長)
■プログラム・ディレクター:数土 直志(アニメーション・ジャーナリスト)
■ジェネラルプロデューサー:真木 太郎(㈱ジェンコ代表取締役)
■映画祭実行委員長:堀越 謙三(ユーロスペース代表、開志専門職大学教授)
■副委員長:梨本 諦嗚(映画監督、株式会社サニーレイン役員)
■東京事務局長:井原 敦哉(㈱ジェンコ/プロデュース本部プロデューサー)
■新潟事務局長:内田 昌幸(にいがたアニメ・マンガプロジェクト共同体統括本部長)
■特別協力: 新潟市、新潟日報社、新潟県商工会議所連合会、NSGホールディングス、他
■後援(予定):内閣府知的財産戦略推進事務局、経済産業省、文化庁、新潟県、新潟県教育委員会、他
■助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画祭支援事業)
公式サイト:https://niaff.net
公式X(旧Twitter):@NIAFF_animation
公式Youtube:https://www.youtube.com/channel/UC81m7n8a8MgQGC-8MUXs7pA