愛知県名古屋市で「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」(通称ANIAFF)がついに2025年12月12日に開幕となった。
2005年に2200万人以上を動員した愛知万博「愛・地球博」をはじめ、国際芸術祭「あいち」、「あいち国際女性映画祭」、「世界コスプレサミット」などの文化事業を継続してきた愛知県。日本の三大都市圏の中核のひとつである愛知県名古屋市のもつ産業と文化のパワーを融合したグローバル、かつ世界有数の規模となる国際映画祭として、世界中のクリエイターが集い、語らい、刺激し合うクリエイションの場となるANIAFFが誕生しました。
12月12日(金)~17日(水)の期間中、世界各国・地域からジャンルや表現方法を超えた最先端の優れたアニメーション作品が集結。市内のミッドランドスクエア シネマ、ミッドランドスクエア シネマ2、109シネマズ名古屋を中核とした上映施設や名古屋モード学園&HAL名古屋などで国際コンペティション部門、ニューウェーブ部門など6つの部門で多くの作品が上映されるほか、多彩なゲストを迎えてのトークやワークショップ、シンポジウムなども行われる。
ANIAFF記者会見概要
開催日:12月15日(月)10:30~
会場:ウイングあいち
登壇者:鈴木竜也監督、タニア・アナヤ監督、フェリックス・デフュール=ラペリエール監督
記者会見には『無名の人生』鈴木竜也監督、『ニムエンダジュ』タニア・アナヤ監督、『死は存在しない』フェリックス・デフュール=ラペリエール監督が登場。
最初に、映画祭の開催地となった名古屋の印象を聞かれると、鈴木監督は「名古屋に来るのは10年前に日帰りで来たのが最後でして、名古屋駅のこちら側と向こう側でずいぶんと雰囲気が違っていて不思議な街だと思いました」と述べつつ、「1週間くらい滞在するので、残りの期間もエンジョイしたいと思います」と名古屋を満喫している様子だった。アナヤ監督は「ブラジルでも日本のプロダクションが多く知られています。なので、ここにいることは、本当に光栄です。日本の皆さんが漫画や映画をすごくリスペクトされていることに驚いています。各セッションで皆さんと意見を交換できて素晴らしい経験ができています。そして、ジブリパークの近くに滞在できていることがうれしいです」と喜んだ。ラペリエール監督は「アニメーターとしては、当然日本のアニメの影響を強く受けていて、伝統的なクラシックなアニメを見て育ちましたので、そういった作品に出てきたものと現実とをリンクさせることができて素晴らしい時間を過ごしています。そして、この新たな映画祭が生まれる瞬間に招待いただいて大変うれしいです」と笑顔を見せた。
続いて、アニメを作ろうと思ったきっかけについて、鈴木監督は「実は大学時代から実写映画を作りたいと思って上京したんですが、仲間もお金もなくて…コロナ禍でバイト先だった歌舞伎町のバーが休みになってしまったときに、お店で使われていたiPadにアニメを描き始めたのがきっかけです」と意外な経緯を明かす。「まだ描き始めて5年目くらいなのでアニメーターとしては新人ではありますが、一人で作ることができるツールとしてアニメーションを作るようになりました。ジブリのようなぬるぬる動く絵には憧れはありますが、個人の実力だけではかなわないので、いかに絵を動かさずにアニメーション映画として成立できるのか、という挑戦をしたのが今回の『無名の人生』です」と語る。先住民とともに40年間生活した社会学者カート・ウンケルの人生を描いた『ニムエンダジュ』について「この作品は、人々が先住民族の問題に対して最初のアプローチをするのに、とても良い入り口になる」という考えを明かすアナヤ監督は「人類学の視点からいうと、先住民と白人は全く別の視点を持っています。私は実際に先住民が住む様々な集落を訪れて、彼らの視点からカート・ウンケルの人生を描くことにしました」とこだわりを明かす。カナダ・ケベックで実際に起きた学生運動を基に『死は存在しない』を作ったラペリエール監督は、この作品に「政治的な暴力と活動も含めて決意や責任感、忠実さ、誠実性といったものを描いた」という。しかしアニメーションで描かれたことに対して、もっとリアルに描きたかったのではと聞かれると「制作にあたりいろいろと研究はしたんですが、この作品についてはアクションや政治的な暴力やステータスだったり、中立性を表すにあたってリアリティも必要になると同時に、その暴力性がすべてを壊していくということを描きたかったこともあり、この表現を選びました」と明かした。
会見に集まった記者からの質問で制作資金について聞かれると、ラペリエール監督は「私はプロダクションツールが自分のものであってほしいということで、兄弟と一緒に12年前に制作スタジオを作りました。そして、ケベックという街は常に市民の方々がエンターテインメントに興味を持ってくださっているので、全体の90%ぐらいを基金に支えられています。経済的にリスクは大きいんですけれども、それでもやりがいがあるので楽しく過ごしております」と独自のシステムを明かす。アナヤ監督も「この映画は13年という長い期間をかけて作りました。通常ブラジルでは政府の補助金を得て制作しますが、資金が集まらないこともあります。この作品は、ブラジルにおける政治的な変化を反映していますので、それが原因で2回も中断しました。また、制作費を多く政府に依存していたため、苦労もしました。例えば、ボルソナロ政権下では制作に様々な困難がありました。しかし、ペルーとの共同制作により、プロジェクトを継続することができました。このように、映画制作の過程は、政府の政策によって左右され、困難を伴うこともあります。多くの援助を受けて完成できたことに感謝しています」とその苦労を語った。一方で、すべてを自費で制作した鈴木監督は二人の話に驚きを見せつつ「短編を作っていたときは仕事の合間で作れたんですが、今回はクラウドファンディングを募ったこともあって、家賃ももったいないので仙台の実家に帰って毎日12時間~15時間を費やしました。最終的には『ひゃくえむ。』の岩井澤監督にお声がけをいただいて仕上げられたんですが、実際に公開するまで2年以上かかりましてようやく収入ができた、というところがあるんですが、私もこの映画祭でそういった面も気になって同じような質問を色んな人にしています」と明かした。さらに鈴木監督に、次回作でも同じ問題に直面するのではないかを聞かれると「いくらでもあげるから、好きなもの作っていいよってシステムになってほしいですね。今まさに悩んでるところでして、天からお金が降ってこないかなって(笑)。もちろんいろいろな支援もあると思うんですが、そういう支援やシステムがあることを知らないことが多いなと思うのでアピールをもっとしてほしいなと思っています。こっちから色々調べないと難しくて、今の若者はたどり着けていない気がするので。欲張りですけど、そう思います」と正直な想いを告白。その意見を聞いたラペリエール監督は「ケベックは本当に幸運な場所でして、パブリックファンディングを活用して結構自由に作ることができると思います。その分、すごく競争が激しいので全体の10%程度の作品しか選ばれないのですが、基金が豊かなので一度成功すれば自由に作れるような環境にはなります」と語り、鈴木監督から羨望のまなざしを受けていた。一方でアナヤ監督は「ブラジルでクラウドファンディングを試みることはほぼ不可能です」と断言。「金額が高く、人々がプロジェクトに参加するという考えが根付いてはいません。なので映画を作ろうと思うと政府の政策に大きく依存する形になります。問題はその瞬間の政府に大きく左右されるということです」とその難しさを明かす。「その時の政府がどのような政策を行うのかは政治家によるところが大きいのですが、公共政策に頼るしかないので、今回のように13年もかかるなどなかなか前に進まないことが多いです」と実情を明かした。
最後に次回作への意欲を聞かれると、鈴木監督は「今回、100年くらいの歴史を描く話だったので、やりたいことは全部やってしまって今は空っぽです」と明かすも「なので次にアニメを作らせていただけるのであれば、原作ものであったり、自分のテーマに近い他の方の脚本を基に作れるような、さらにお金も気にせずにやれたらいいなと思います」と要望。次の制作を考えているところだというアナヤ監督は「いま、サッカーをテーマを描きたいな、と考えています」と次回の構想について語ると、すでに次回作の制作が決まっているラペリエール監督は「墨(チャコール)で描くものになるかと思いますけれども、秩序と無秩序、自分自身に対する愛着と他人との関係とか、そういったものを描いた芸術作品に近いアニメを作っています」と語った。
第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル概要
名称:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル
英語表記:Aichi Nagoya International Animation Film Festival
会期:2025年12月12日(金)~17日(水)
主催:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会
ジェネラル・プロデューサー:真木太郎
フェスティバル・ディレクター:井上伸一郎
アーティスティック・ディレクター:数土直志
企画・制作:株式会社ジェンコ
共催:愛知県・名古屋市
協力:中日本興業株式会社、株式会社東急レクリエーション、株式会社新東通信、学校法人 日本教育財団 名古
屋モード学園・HAL名古屋
会場:ミッドランドスクエア シネマ、ミッドランドスクエア シネマ2、109シネマズ名古屋などの上映施設ほか5カ所を予定
公式サイト:https://aniaff.com/
公式X:@AichiNagoyaIAFF



